アメリカにおける日本語教育:ジョージア州アトランタにて。

広大なエモリー大学キャンパス

  アメリカ南部のアトランタといえば不朽の名作、”風と共に去りぬ“の舞台となったところ。そこに、アメリカの名門大学のひとつであるエモリー大学がある。2020年度版の”世界“大学ランキングでは、80位に入っている。医学部、看護学、ビジネス、言語学科等が特に有名な総合大学で、アメリカ国内では、20位以内にランクされている。日本で、聖路加国際病院長を務められた日野原重明先生も同大学で、学ばれた。

  因みに、アトランタには、コカ・コーラ、デルタ航空、CNNなど、多数の大企業が本社を置いていて、経済の中心地となっている。

  言語学分野でも突出しているこの大学において、日本語・日本文化の教授として28年間教壇に立たれた、武田典子先生が、先頃、郷里の上越にお戻りになられた。縁あって、親しく先生と歓談の機会あり、アメリカにおける日本語教育の一端を当校ブログに寄稿していただいた。先生からは、「このブログをお読みくださる方々のご参考になる事が、あれば嬉しいです」とのメッセージを戴いた。(序文記:真島 明子)

<2019年のアメリカでの日本語学習の様子について>

~外国語学習の目的~     

(当該大学 Senior Lecturer Emerita of Japanese)武田典子

   昔のアメリカの大学では、限られた日本研究専攻の学生が、文献を読むための手段として日本語を履修したものですが、1985年以降、日本語ブームが起きました。 その後、2000年前後に、中国語講座があちこちの大学で生まれ、多数の学生が中国語を履修しましたが、漢字との格闘は割に合わないとブームは既に終了。

   興味深いのは、中国語が全盛の時でさえ、日本語学習者数が著しく減った訳ではなかったのです。その数は安定しているのです。今、大学生にアンケートを取れば、日本語を履修する目的は「日本文化を知ること」です。ウルトラマンと怪獣に詳しい学生、アニソンを何も見ずに歌える学生、最新ドラマをほぼ日本と同時に見る学生、アイドルの歌と踊りが趣味などの学生が普通にいます。

   2019年のアメリカでは、どの外国語においても「コミュニケーションのツール」を超え、「文化探求」の切り口として外国語を教えています。私が教えた大学では、日本語はシラバス説明をした翌日から一週間でひらがなをマスター。次の一週間でカタカナ、そして漢字へ入ります。もちろん、毎日の50分授業では日本語で発話させながらです。ですから、教師も学生も必死です。

   そして、日本語を学習し始めて3、4週間もすると、テスト配布や宿題返却する際に学生が教師に対し、自然と会釈や黙礼をし始めます。うなずくことでのコミュニケーションも見られるようになります。教師が教えたわけではないけれど、日本人教師への観察や大好きなドラマで見ていたことをやってみる訳です。会釈することで相手への気持ちを表せることを体得するようです。

   ひらがなが定着した頃、教師は「習字」体験と題して学生に筆を持たせ、文字の「とめ、はらい、はね」の美しさを感覚として教えます。そして、3年近く履修している学生などは、文化による謝り方の違いなども悟ってきます。コミュニケーションのツールとして日本語を学びながら、その言葉の奥にあるものを同時に探っているのです。

   この拙文を読んでくださっている皆様、外国語は確かにコミュニケーションツールです。しかし、そこで立ち止まらずに奥へ進んでみてください 。例えば、英語学習者の方は、映画を見ながらでも、職場でどうやって互いの名前を呼び合うか、注意してみてください。どうして新入社員が年上の上司をファーストネームで呼ぶのか。失礼にならないのか?どうして、自分の机の周りに家族写真を飾るのか。日本社会には無い状況に、諸々、気付く事があると思います。

   そして、その違いをネイティブとシェアしてください。ネイティブの方は、喜んで自分の考えや経験を話してくれると思います。自分と異なる事や物を発見した時、それは自分や自分たちが住む社会をより良く知る機会にもなるでしょう。どうぞ、皆さまにおかれましても、言葉は文化への入り口だということを実感されることを願っております。皆様それぞれの目標に向かい、頑張って下さい!

卒業時期になると、学生達は、この石碑の上で記念写真を撮ります。

追記(真島)

   MIC通訳・外語スクールでも、日本語クラスを開講しています(プライベート・レッスンのみ)。講師は、「外国人に日本語教える講師」育成を担当しておられる方ですので、日本語の基礎から上級レベルまで皆様のニーズに合わせて対応させていただいています。お問い合わせは、当校まで!